上座部仏教では具足戒(出家者の戒律)を守る比丘サンガと彼らを支える在家信徒の努力によって初期仏教教団、つまり釈迦の教えを純粋な形で保存してきたとされる。しかし、各部派の異動を等価に捉え、漢訳・チベット語訳三蔵に収録された部派仏教の教えや、さらに近年パキスタンで発見された部派仏教系の教典と上座部のパーリ教典を比較研究する仏教学者の立場からは、上座部は部派仏教時代の教義と実践を現在に伝える唯一の宗派であると評価されるに留まる。
教義では、次のようにされている。限りない輪廻を繰り返す生は「苦しみ(dukkha)」である。この苦しみの原因は、こころの執着(貪瞋癡)である。そして、こころの執着を断ち輪廻を解脱するための最も効果的な方法は、教典の学習、戒律の厳守、瞑想の修行であるとする。大乗仏教では部派仏教の形式主義を批判し、釈尊の真精神を発揮するとの立場から、数あまたの如来・諸菩薩が活躍する大乗経典を生み出し、中観・唯識に代表される思想的展開が図られていった。それに対して上座部仏教では、釈迦によって定められた戒律と教え、悟りへ至る智慧と慈悲の実践を純粋に守り伝える姿勢を根幹に据えてきた。古代インドの俗語起源のパーリ語で記録された共通の三蔵(tipitaka)に依拠し、教義面でもスリランカ大寺派の系統に統一されている点など、大乗仏教の多様性と比して特徴的なことは確かである。
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また、上座部においては古代スリランカにおける戦乱の時代に比丘と比丘尼(尼僧)サンガが両方とも滅亡した。比丘のサンガはビルマに伝播していたために復興がかなったが、比丘尼のサンガはこれによって消滅となった。チベットにはインドから比丘尼のサンガが伝播せず、その後にインド仏教が滅んだため、仏教で比丘尼のサンガが存在するのは中国系の仏教だけという状態であった。上座部で尼僧というと、比丘でも戒律を授けることができる見習比丘尼をさす。正式な比丘尼の戒律を授けるには複数の比丘尼が必要となるからである。だが近年、台湾に残存する、中国仏教の比丘尼の系統を使って上座部の比丘尼のサンガの復興がはかられているが、その地位は、上座部が大乗を異端とみなしているということもあいまって教義的に問題視されている。タイではメーチー(mae chi)、ミャンマーではティラシン(thila shin)と呼ばれている正式な僧とは言えないものの、ほぼ尼僧に近いような生活をしている女性たちがいる。なお、日本における「僧侶」は、上座部仏教の立場から見ても密教大乗仏教の中国・韓国・ベトナムおよびチベット仏教でも、具足戒を受けて精進していないため「出家者、僧」比丘とは認められない。(仏教徒の帰依は、仏、法、僧の三宝が大前提であることから、具足戒は大変重要不可欠な点である。)